大淀病院の件、もう1回検索。

 せっかく通りすがりさんにもコメントしていただいたので、自分で調べたとか取材したわけじゃないんで、そんな大した話ではないんだけれども、大淀病院の件、各マスコミでどの程度取り上げているのか、新聞・雑誌記事横断検索で再度検索。
 ええと、前回エントリーでは、共同、NHK、朝日まででしたっけ。先ほど調べたらば、加えて、読売、産経、毎日、沖縄タイムスが取り上げていました。
 沖縄タイムスは、共同の配信した内容そのまま、とはいっても、地方紙で唯一取り上げているので、評価できる。あとはすべて、大阪朝刊。全国版ではない。
 内容は、大体が原告・被告の両論併記。しかし、毎日だけ異質さが目立っている。これは、Yosyan先生のところ(「新小児科医のつぶやき」から「マスコミ許すまじ」)であるとか、天漢日乗さん(「「マスコミたらい回し」とは? (その77)」)に詳しい背景が記されていますんで、ご一読を。必見です。
 前のエントリーでも触れたが、このニュースは、その経過も重要だけれども、医師不足とマスコミの報道姿勢を考える上で非常に重要な出来事。
 全国的に医師不足、特に産科小児科不足が騒がれていると思っていた。が、世間の認識はまだまだそうではない様子。だとすれば、マスコミが本気で騒ぐころには確実に手遅れになるね。だって、その頃には必ず今以上の状態になっているから。医師不足医療崩壊は止まりません。
 あと、気になったこと。

 ◇「命助けようとする必死さ伝わらなかった」

 今回裁判まで至った背景を考えると、ご遺族の一言一句、あるいは行動に対して突っ込みを入れるのは申し訳ないんだけど、この言葉、ちょいとひっかかる。
 なにか処置をする場合、特に命に関わるような事態の場合は、冷静に慌てず対処してはいけないってことなんでしょうか。アタフタしたほうが雰囲気が伝わりやすいとは思うけど、それもどうなのかな、とも思う。
 以下は記事。沖縄タイムスは共同と同内容なので割愛します。
 まず読売。

大淀病院妊婦死亡 町・医師、争う姿勢 民事訴訟第1回弁論=奈良
2007.06.26 大阪朝刊 33頁 (全899字) 
 ◆「脳出血、救命できず」
 大淀町大淀病院で昨年8月、出産時に意識不明になった妊婦が相次いで転院拒否された末に死亡した問題で、遺族が「脳検査も治療もせず放置した」として同町と担当医を相手に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一裁判長)であった。被告側は「重篤な脳内出血のため救命できず、死亡との因果関係はない」と請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。
 この日は、亡くなった高崎実香さん(当時32歳)の夫で原告の晋輔さん(25)が「医師からは命を助けようとする必死さが全く伝わってこなかった。妻は一度もわが子を見ることも抱くこともできなかった」と時折、涙ぐみながら訴えた。
 これに対し、被告側は「子供の命も重大な危機に直面したが、何の障害も残さずに助かっており、医師の処置の正しさを証明している。県医師会なども『医師に責任がない』との見解を表明した」と反論した。
 ◆子どものため真実を 夫ら記者会見「休診は逃げ」と反論
 弁論終了後、夫の晋輔さんら遺族が記者会見。「子どものために頑張りたい」と、真相解明と病院の責任追及に向けて改めて決意を語った。
 晋輔さんは、被告側が全面的に争う姿勢を見せたことに「これから争いが続く悲しみに、耐えられるか不安もある」と揺れる心境を吐露したが、「このままでは、なぜ母親が亡くなったのかを子どもに伝えられない」と真実を明らかにする思いを述べた。
 また、被告側が弁論で、同病院の産科の休診を「(今回の問題で)正当な批判の域を超えてバッシングされ、撤退を余儀なくされた」と説明したが、それについては、晋輔さんは「自分たちは続けてほしいと願っている。病院の“逃げ”だと思う」と反論した。
 実香さんの義父の憲治さん(53)も「病院側は当初、違う理由を説明していた。今回の問題を理由にするのは卑劣で、晋輔の心が傷つかないか心配」と涙を浮かべて訴えた。
 また、県警による業務上過失致死容疑での捜査について、被告側が「警察は『立件しない』としている」と述べたことに対し、憲治さんは「県警からは『今もまだ一生懸命やっています』という報告もあった」と否定した。
読売新聞社

 次、産経。

奈良の妊婦死亡第1回口頭弁論 町側、争う姿勢
2007.06.26 大阪朝刊 28頁 第2社会 (全438字) 
 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明に陥った同県五條市の高●実香さん=当時(32)=が19病院から転院を断られた末に死亡した問題で、同病院の診断ミスが死亡の原因などとして、遺族らが町と同病院の担当医に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一裁判長)であり、町側は争う姿勢を示した。
 町側は答弁書を提出し、「担当医はほとんど診察せずに仮眠し、転院の処置を怠った」とする原告側の主張に「仮眠の事実はなく、転院先を探していた」と反論。また、実香さんの病状が急激に悪化した可能性を指摘した上で、「処置に関係なく救命し得なかった」と過失を否定し、原告側の請求棄却を求めた。
 一方、この日は実香さんの夫、晋輔さん(25)が意見陳述。「主治医は発作だというばかりで救命措置をするでもなく、命を救うという必死さが伝わってこなかった。早く処置していれば助かったはずだった」と涙ながらに訴えた。
 【注】●=「山」ヘンに「竒」
産経新聞

 最後に、毎日。

奈良・妊婦転送死亡:賠償訴訟 初弁論、夫が涙の訴え 両親も癒えぬ悲しみ
2007.06.26 大阪朝刊 27頁 総合面 写図有 (全963字) 
 ◇「命助けようとする必死さ伝わらなかった」
 ◇娘の死、産科医療に生かして−−両親も癒えぬ悲しみ
 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった同県五條市の高崎実香さん(当時32歳)の転送が難航した上、死亡した問題で、夫晋輔さん(25)と10カ月の長男奏太ちゃんが町と担当医師に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の初弁論が25日、大阪地裁(大島眞一裁判長)であった。晋輔さんは「命を助けようとする必死さが伝わってこなかった」と涙ながらに意見陳述。被告側は「早く搬送していても救命の可能性はなかった」と全面的に争う姿勢をみせた。【高瀬浩平、撮影も】
 この日、実香さんの両親も傍聴。母(58)は終了後、「あの子は天国から見守ってくれたと思います」と涙を浮かべた。
 晋輔さんが意見陳述に立つと、母は胸に抱いた実香さんの遺影に「見守っててね」と語りかけた。手にした赤い巾着(きんちゃく)袋の中には安産のお守りと、実香さんの回復を願って写した般若心経。「奇跡が起きて良くなりますようにと、わらにもすがる思いでした。あの子の枕元にずっと置いていました。奇跡は起きませんでした」と袋をさすった。
 弁論で、母は被告側の「社会的なバッシングで大淀病院は周産期医療から撤退した」との意見表明に心を痛めた。「実香の死で病院が閉鎖に追い込まれたかのような主張。実香も『そうじゃないでしょ』と言いたいと思う」と少し口調を強めた。
 父(60)も「娘は亡くなったのに、被告側が被害者だと言っている感じがした。なぜ亡くなったのか、なぜ脳内出血が起きたのか究明してほしい」と訴えた。
 母の悲しみは癒えない。一日に何度も仏壇に手を合わせ「どうしてる?」「実香ちゃん。安らかになれたらいいね」と話しかける。24日に墓参りし、「正しい道が開かれますように見守ってね」と祈った。
 父も「寂しさや悲しみは和らぎ、薄らぐことがない。日がたつにつれて増していく感じ。娘は妻として母としての夢があった。子どもにどんな服を着せよう、どんなお弁当を作ってあげよう、と言って、普通の平凡な生活を望んでいたと思う。夢を閉ざされて無念だっただろう」と話した。訴訟については「娘の死を産科医療の充実のために生かしてほしいというのが親としての思いだ」と話した。
毎日新聞社