やっと取り上げてくれたか、といった感のある記事。

 しかし、よく考えてみれば、給食費払わない、クレーム多い、いわゆるモンスターペアレントなるものが騒がれはじめているので、その流れのひとつとしかとらえられてないかもしれない。
 今日の読売新聞から。まず1面。

横暴な患者 病院苦悩
暴力430件 暴言990件 昨年54大学病院
聴診器で医師の首締める 検査異常なし「金払わぬ」

 その関連記事として、31面。

モラルを問う
医師と患者 揺らぐ信頼
外科医「暴力振るわれむなしい」
看護師「ピン突きつけられ嫌悪感」

 いずれも以前から騒がれていることではあるが、1面トップと、その他に紙面を割いて取り扱っていることは評価したい。しかし、その中で、気になった記述。1面では、

けがを負う病院職員は少なくないが、「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」という意識から、警察に届け出ない場合も多いという。

…と患者さんのことを思って、という態度はわからんでもないが、31面では病院側の対応に疑問を持たざるを得ない実例もある。

 1年ほど前、肩にすり傷を負った若い男性患者から、痛み止めの薬を希望された。「強い薬なので必要ありません」と答えると、患者は突然、「言うことをきけないのか」と、胸倉をつかんで殴りかかり、さらに、腰掛けていたいすも投げた。しかし、病院側は患者の気持ちを鎮めるため、「説明不足の点があった」と謝罪し、納得して帰ってもらったという。
 首都圏のある病院の救急外来では、今年、階段から転落した中年の男性会社員が救急車で運ばれてきた。休日だったことから、医師はとりあえず、打ちつけた部分をレントゲン撮影し、異常がなかったため、「後日、全身の撮影をしてください」と助言した。
 ところが、男性は数日後、全身撮影で骨のひびが見つかったとして、「誤診だ」とどなりこんできた。慰謝料のほか、搬送された日に駆け付けた妻が使った車のガソリン代も請求。病院は診療費を無料にすることで事態を収めた。

 病院側がなぜにこんなに弱腰なのか。
 医療の現状を示す一例として、実例をいくつか挙げていることは評価すべきことではある。しかし、

 具体的な対策をとっている病院は44にのぼり、警察OBを職員に雇い、患者への応対に当たらせている病院は21、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院は10あった。院内暴力を早期に発見・通報するため、監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置する病院もあった。

…といった対症的な対策の実例はあるなか、原因の分析や根本的解決策の提示は以下の部分のみ。

 病院での暴力や暴言の背景について、日本看護協会の小川忍・常任理事(45)は、「医師と患者の力関係が変化している」と説明する。小川理事によると、患者の診療費の負担割合が増えたことで、医療サービスを買っているという権利意識が患者側で強まり、「医師とは対等以上」という感覚を持つ人が増加しているという。
 一方、「病院スタッフの言葉遣いや説明不足も、相手を立腹させる要因になっている」と、自戒する病院も少なくない。また、ある大学病院の看護師長は、「精神疾患などの人の暴力は、医療現場ではやむを得ない面があり、一般の患者のモラルとは分けて考えなければならない」と話す。
 小川理事は解決策として、「暴力やクレームの兆候を見逃さない病院の体制づくり」を挙げ、「病院スタッフがそれぞれ患者の様子に目配りし、患者ごとの情報を共有することが必要だ」と指摘している。

 具体策が挙げられているようだが、抽象的な方法に過ぎない。しかも、「患者さんは悪くありません。われわれが気を使うべきなのです」で終わっている。ときには病院として毅然とした対応が必要なのに。責任を医師・看護師だけに押し付けずにね。
 しかも、ただでさえ足りていない、疲弊しきっている医療従事者にもっと気を配れと。これ以上どう気を配れと言うのか。
 以下は記事。
 まず1面。

読売新聞 平成19年8月19日(日) 1面

横暴な患者 病院苦悩
暴力430件 暴言990件
昨年54大学病院

聴診器で医師の首締める
検査異常なし「金払わぬ」

 全国の大学病院で、昨年1年間に医師、看護師が患者や家族から暴力を受けたケースは、少なくとも約430件あることが、読売新聞の調査で明らかになった。理不尽なクレームや暴言も約990件確認された。病気によるストレスや不安が引き金となったケースも含まれているが、待ち時間に不満を募らせて暴力に及ぶなど、患者側のモラルが間われる事例が多い。回答した病院の約7割が警察OBの配置などの対策に乗り出しており、「院内暴力」の深刻さが浮かび上がった。〈関連記事31面〉

 調査は、先月から今月にかけ、47都道府県にある79の大学病院を対象に行い、59病院から回答があった。このうち、何らかの暴力あるいは暴言があったと回答した病院は54にのぼる。暴力の件数は約430件、暴言・クレームは約990件。暴力が10件以上確認されたのは6病院、暴言・クレームが50件以上あったのは5病院だった。
 「クレームはここ2年間で倍増した」(大阪大医学部付属病院)など、暴力や暴言・クレームが増加しているという回答は、33病院に達した。ただ、こうした件数や事例を記録に残していない病院もあり、今回の調査結果は、「氷山の一角」の司能性が高い。
 暴力の具体例では、入院手続きの時間外に訪れた軽いけがの男性に、医師が「ベッドの空きがないので明日来てほしい」と告げたところ、缶コーヒーを投げつけられ、注意すると顔を殴られて、顔面を骨折したケースがあった。入院患者から「言葉遣いが気に入らない」という理由で足に花瓶を投げられた看護師もいた。けがを負う病院職員は少なくないが、「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」という意識から、警察に届け出ない場合も多いという。
 暴言・クレームでは、複数の患者がいたために、すぐに診療を受けられなかった患者の家族が、「待ち時間が長い」と腹を立てて壁をけったり、暴言を吐いたりした。検査後に異常がなかったことがわかると、患者から検査費用の支払いを拒まれた病院もあった。精神疾患や重い病気で心理的に追い詰められた患者が、暴力や暴言に走ってしまった事例もある。しかし、多くの病院は、それ以外の一般患者や家族による理不尽な行為に悩んでおり「(一部の患者から)ホテル並みのサービスを要求され、苦慮している」(慶応大病院)との声が上がっている。
 具体的な対策をとっている病院は44にのぼり、警察OBを職員に雇い、患者への応対に当たらせている病院は21、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院は10あった。院内暴力を早期に発見・通報するため、監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置する病院もあった。

 31面。

読売新聞 平成19年8月19日(日)31面

モラルを問う
医師と患者 揺らぐ信頼
外科医「暴力振るわれむなしい」
看護師「ピン突きつけられ嫌悪感」

 「患者さん」「先生」と呼び合える信頼関係が、医療の現場から失われようとしているのだろうかー。全国の大学病院で、患者やその家族による暴力、クレームが頻発している実態が、読売新聞の調査で判明した。患者側の権利意識の高まりが背景にあるとみられるが、暴力を受けた医師や看護師が心に傷を負ったり、クレーム対応に職員が忙殺されたりするなど、医療現場の悩みは深い。〈本文記事1面〉

 「医師として、患者のために力を尽くしているつもりなのに、暴力を振るわれるのはむなしい」。東京都内の病院に勤務する外科医師の男性(35)は、そう明かした。
 1年ほど前、肩にすり傷を負った若い男性患者から、痛み止めの薬を希望された。「強い薬なので必要ありません」と答えると、患者は突然、「言うことをきけないのか」と、胸倉をつかんで殴りかかり、さらに、腰掛けていたいすも投げた。しかし、病院側は患者の気持ちを鎮めるため、「説明不足の点があった」と謝罪し、納得して帰ってもらったという。
 首都圏のある病院の救急外来では、今年、階段から転落した中年の男性会社員が救急車で運ばれてきた。休日だったことから、医師はとりあえず、打ちつけた部分をレントゲン撮影し、異常がなかったため、「後日、全身の撮影をしてください」と助言した。
 ところが、男性は数日後、全身撮影で骨のひびが見つかったとして、「誤診だ」とどなりこんできた。慰謝料のほか、搬送された日に駆け付けた妻が使った車のガソリン代も請求。病院は診療費を無料にすることで事態を収めた。
 
 暴力や暴言は、現場に大きな負担を与えている。
 勤続17年の看護師の女性(37)は、「ある患者から大きな押しピンを突き付けられたことをきっかけに、患者に対して恐怖心や嫌悪感を抱くようになってしまった」と告白する。「看護師の仕事に誇りを感じていたが、患者との間に壁ができてしまい、続けていく自信を失いかけた」と言う。こうした暴力を受けながら、病院側が救済措置をとらなかったため、看護師らがさらに心理的な傷を深め、退職してしまうケースもある。
 暴力や暴言のきっかけは、「クーラーが効かない」など、ささいなものも目立つ。福岡大病院は、「小さなミスをとらえて『謝罪しろ』『賠償金をよこせ』とクレームをつけてくる人が多く、医師や職員のストレスや過労につながっている」としている。
 
 病院での暴力や暴言の背景について、日本看護協会の小川忍・常任理事(45)は、「医師と患者の力関係が変化している」と説明する。小川理事によると、患者の診療費の負担割合が増えたことで、医療サービスを買っているという権利意識が患者側で強まり、「医師とは対等以上」という感覚を持つ人が増加しているという。
 一方、「病院スタッフの言葉遣いや説明不足も、相手を立腹させる要因になっている」と、自戒する病院も少なくない。また、ある大学病院の看護師長は、「精神疾患などの人の暴力は、医療現場ではやむを得ない面があり、一般の患者のモラルとは分けて考えなければならない」と話す。
 小川理事は解決策として、「暴力やクレームの兆候を見逃さない病院の体制づくり」を挙げ、「病院スタッフがそれぞれ患者の様子に目配りし、患者ごとの情報を共有することが必要だ」と指摘している。