今日、話題の社説を並べてみた。

 なぜか毎日だけが取り上げてない。

産経:【主張】妊婦たらい回し また義務忘れた医師たち
ウェブ魚拓
読売:妊婦たらい回し 一刻も早い産科救急の整備を(8月31日付・読売社説)
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朝日:奈良の死産―救急網に穴が多すぎる
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  • かかりつけ医がない妊婦に対して。

 産経。かかりつけ医を持たない妊婦をはじめとした想定外の事態にも対応せい、と。

 奈良県の幹部は「かかりつけ医のいない妊婦の搬送は想定外だった。すぐに対策をとりたい」と話すが、トラブルや事故は予期せぬ中で発生するのが常である。早急に抜本的対策をとる必要があろう。

 読売。重い患者については対応すべき。かかりつけがない妊婦についての具体策無し。

 だが、ネットワークは、病院間での搬送が前提になっていて、医師が病状を確認していないと、搬送のシステムが動き出さない。今回の妊婦のように、かかりつけの医師がなく、消防から直接要請を受ける場合は想定していなかった。
 重篤な患者については、救急車からの要請にも対応できるよう、運用を改善すべきではないか。

 朝日。かかりつけ医を持たない場合でも、「必要なら」病院間のシステムに乗せろ、と、産経と似ているようでちょっと違う。

 ところが、今回の女性は医師にかかっておらず、妊娠の状態もよくわからなかった。このため、駆けつけた救急隊員が限られた情報をもとに、直接受け入れ先を探さざるをえなかった。
 旅先や帰省先で異変に見舞われることも少なくない。かかりつけの医師の協力を得られない場合でも、必要なら病院間の搬送システムに乗せる方法を考えておく必要がある。

 産経。具体策無し。本腰を入れて取り組むべき。

 妊婦のたらい回しは、奈良県だけに限った問題ではない。厚労省は産科医などの医師不足対策に本腰を入れて取り組むべきである。

 読売。具体的なように見えて抽象的な提案。よくわからん。

 産科医不足は深刻だ。2004年までの10年間で7%も減り、1万人余になった。出産を扱う医療機関も05年までの12年間に1200施設が閉鎖された。
 厚労省は来年度予算の概算要求に医師不足対策費160億円を盛り込んだが、養成には時間がかかる。当面の対策として、自治体や医療機関が緊密に連携した広域的な救急体制を整備すべきだ。

 朝日。これも具体策なし。

 こうした事件が奈良で続くのは、人口当たりの産科医が少ないこともある。医師の負担は大きく、とりわけ夜間の救急態勢は手薄になりがちだ。
 しかし、東京や大阪などでも、いくつもの病院に断られたあげく、遠くまで搬送する例が珍しくない。産科医が減り、お産を扱う医療施設も減っている中で、母親と赤ちゃんの命を救える搬送システムを再構築しなければならない。

 いずれもヒトと金が必要な話。産経、読売の意見にみられるような、

 それにしても、痛みをこらえる患者をたらい回しにする行為は許されない。理由は「手術中」「ベッドがない」といろいろあるだろうが、患者を救うのが医師や病院の義務である。それを忘れてはならない。

 しかし、空きベッドはあった。なぜ受け入れられなかったのか。窓口の職員と医師が十分に意思疎通できていたのかどうか。仮に医大病院が無理だったとしても、消防と協力して、別の受け入れ先を探すことができたのではないか。

 「理由はどうあれ受け入れるのが医師・病院だろう」、「ベッドが空いていれば受け入れられるはずだろう」…こういった精神論ばかり並べ立てているようでは、読者にウケはいいだろうが、医療従事者は現場を離れていくばかり。
 もっと現状の把握と分析を行ってから社説として発表すべき話。大新聞の社説としてはお粗末。
 朝日新聞。もうちょっとへんな意見を書いていると思ったらそうでもないので、正直つまらん。「たらい回し」使っていないの朝日だけだし。悪いことじゃないけど、もうちっとこう……いいや。
 以下は記事。
 産経新聞

【主張】妊婦たらい回し また義務忘れた医師たち
 次々と病院から受け入れを断られ、たらい回しにされた奈良県の妊娠中の女性が、救急車の中で死産した。奈良県では昨年8月にも、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった妊婦が、19カ所の病院に転院を断られ、死亡している。悲劇が再び起きたことに死亡した妊婦の夫は「この1年間、何も改善されていない。妻の死は何だったのか」と怒りをあらわにする。その通りである。「教訓が生かされてない」と批判されても仕方がない。
 女性はようやく見つかった10カ所目の大阪府高槻市の病院に向かう途中、救急車内で破水し、その直後に救急車が軽ワゴン車と衝突した。
 事故後、消防隊員が連絡すると、病院側は「処置は難しい。緊急手術も入っている」と断った。その後、大阪府内の2病院にも断られ、困った消防隊員が再び要請すると、高槻市内の病院は受け入れをOKした。結局、病院にたどり着いたのは、119番から3時間もたっていた。
 奈良県では危険な状態にあるお産の周産期医療の搬送は、健康状態を把握しているその妊婦のかかりつけ病院が県内の2病院に連絡し、それぞれが受け入れ先を探す。この仕組みだと、比較的受け入れ先が見つかりやすい。
 しかし、死産した女性はかかりつけの医者がいなかった。このため、一般の搬送の手順で消防隊が受け入れ先を探した。これが時間のかかった理由のひとつだという。
 奈良県の幹部は「かかりつけ医のいない妊婦の搬送は想定外だった。すぐに対策をとりたい」と話すが、トラブルや事故は予期せぬ中で発生するのが常である。早急に抜本的対策をとる必要があろう。
 周産期医療を扱う病院は、全国的に減少している。産婦人科医は内科医などに比べ拘束時間が長く、訴訟も多いからだ。
 妊婦のたらい回しは、奈良県だけに限った問題ではない。厚労省は産科医などの医師不足対策に本腰を入れて取り組むべきである。
 それにしても、痛みをこらえる患者をたらい回しにする行為は許されない。理由は「手術中」「ベッドがない」といろいろあるだろうが、患者を救うのが医師や病院の義務である。それを忘れてはならない。
(2007/08/31 05:02)

 読売新聞。

妊婦たらい回し 一刻も早い産科救急の整備を(8月31日付・読売社説)
 産科の緊急医療体制の欠陥がまた、悲劇を招いた。
 奈良県の妊娠7か月の女性が大阪府の病院へ運ばれる途中、救急車内で死産した。九つの病院に受け入れを断られ1時間半も搬送先が決まらなかった。
 奈良県では昨年8月、公立病院で分娩(ぶんべん)中に意識不明になった妊婦が19病院に受け入れを拒否され、死亡している。
 妊婦のたらい回しは、首都圏をはじめ全国で起きている。今回のような例は氷山の一角ではないか。一刻も早く、妊婦や新生児の緊急搬送システムを構築し、お産の安全を確立することが必要だ。
 奈良県の妊婦は未明に出血した。通報を受けた消防は、奈良県立医大病院に受け入れを要請したが、宿直医が診察中などという理由で要請を3回断られた。
 しかし、空きベッドはあった。なぜ受け入れられなかったのか。窓口の職員と医師が十分に意思疎通できていたのかどうか。仮に医大病院が無理だったとしても、消防と協力して、別の受け入れ先を探すことができたのではないか。
 やっと40キロ離れた大阪府高槻市の病院を見つけたものの、搬送中の救急車が事故に遭い、到着は通報から3時間後になった。もっと早く搬送できていれば、胎児は助かったかもしれない。
 奈良県大阪府は、空きベッドの有無や医師が対応可能かどうかをパソコンで確認する産科病院の相互支援ネットワークを、それぞれ設けている。
 だが、ネットワークは、病院間での搬送が前提になっていて、医師が病状を確認していないと、搬送のシステムが動き出さない。今回の妊婦のように、かかりつけの医師がなく、消防から直接要請を受ける場合は想定していなかった。
 重篤な患者については、救急車からの要請にも対応できるよう、運用を改善すべきではないか。
 奈良県は、リスクの高い妊婦や胎児を専門的に診療する「総合周産期母子医療センター」の設置も遅れている。
 厚生労働省は、今年度中に全都道府県が整備するよう求めてきたが、奈良県医師不足から、山形、佐賀、宮崎の3県とともに来年度以降にずれ込みそうだ。こんな地域格差があってはならない。
 産科医不足は深刻だ。2004年までの10年間で7%も減り、1万人余になった。出産を扱う医療機関も05年までの12年間に1200施設が閉鎖された。
 厚労省は来年度予算の概算要求に医師不足対策費160億円を盛り込んだが、養成には時間がかかる。当面の対策として、自治体や医療機関が緊密に連携した広域的な救急体制を整備すべきだ。
(2007年8月31日1時32分 読売新聞)

 朝日新聞

奈良の死産―救急網に穴が多すぎる
 一刻も早い手当てが必要な妊婦がいるのに、引き受けてくれる病院がなかなか見つからない。そんな悲劇がまたも繰り返された。
 奈良県の女性が深夜、やっと見つかった約40キロ先の病院に救急車で向かう途中、車内で死産したのだ。交通事故に遭う不運も重なった。結局、11の医療機関に断られ、最後に病院に着いたのは救急車が来てから約3時間後だった。
 奈良県では1年前にも、出産の途中で意識不明になった女性が、19の病院に転送を断られ、8日後に亡くなった。
 なぜこんなことになったのか。奈良県は調査するというが、きちんと究明し、その教訓を今後に生かしてもらいたい。
 今回の経過はまだはっきりしない点もあるが、問題点の一つは、搬送先を探すシステムに穴があったのではないか、ということだ。
 産科の救急患者で切迫している場合には、かかりつけの医師の診断に基づく要請で、受け入れ先を探す病院間の搬送システムがある。
 ところが、今回の女性は医師にかかっておらず、妊娠の状態もよくわからなかった。このため、駆けつけた救急隊員が限られた情報をもとに、直接受け入れ先を探さざるをえなかった。
 旅先や帰省先で異変に見舞われることも少なくない。かかりつけの医師の協力を得られない場合でも、必要なら病院間の搬送システムに乗せる方法を考えておく必要がある。
 もう一つの問題は、病院内での医師と事務担当者、さらに病院と救急隊との間で意思疎通がうまくいっていないのではないか、ということだ。
 受け入れを打診された病院では、事務担当者が断ったところがある。そのなかには、医師はほかの患者の治療中だったので、「後にしてほしい」といったが、断ったつもりはなかったというケースもあった。電話を医師につないでいれば、受け入れることができたかもしれない、という病院もある。
 どのような場合ならば、救急患者を受け入れられるのか。日ごろから医師と事務担当者、救急隊の間で話し合いを重ねておかなければならない。
 こうした事件が奈良で続くのは、人口当たりの産科医が少ないこともある。医師の負担は大きく、とりわけ夜間の救急態勢は手薄になりがちだ。
 しかし、東京や大阪などでも、いくつもの病院に断られたあげく、遠くまで搬送する例が珍しくない。産科医が減り、お産を扱う医療施設も減っている中で、母親と赤ちゃんの命を救える搬送システムを再構築しなければならない。
 一方で、救急医療そのものを立て直すことも考えた方がいい。お産や病気、けがを問わず、救急患者を24時間、必ずどこかの病院が引き受ける。そんな態勢を地域の医療機関と病院が連携して作り上げていきたい。