真打登場。

 やっとでました、毎日新聞。しかし、筆者が他社の社説を見たのだろうか、産経ほどの「問答無用で労働せい」といった感はなく、もちろん「たらい回し」の言葉もなく、それほど、トンでもない、といった内容ではない。もちろん、突っ込みどころはある。MSN毎日インタラクティブより。
社説:妊婦死産 救急医療体制の穴をふさげ
ウェブ魚拓

…同県では1年前にも同じような経緯で妊婦が出産後に死亡している。行政も医療現場も、命を代償に得た教訓をどこまで真剣に受け止めたのか。批判は免れない。国全体で、安全で安心して子供を産める体制づくりに取り組む時である。

 大淀病院の件と今回の件。同じ点は「受け入れを複数ヶ所に打診したが断られ、最後に大阪の病院が受け入れ、搬送された」ということくらいではないのか。システムの不備は批判されるべきだが、同列に扱うような話ではない。

 国は、医学部定員の抑制策を見直すとともに、医師の待遇改善にも取り組むべきだ。医療事故が起きた場合の補償について、医師や病院の負担軽減の手立てを考えることも必要である。
 厚生労働省は来年度予算の概算要求で、勤務医の負担軽減など医師不足対策に、前年度比73%増の160億円を計上した。診療報酬の改定でも、勤務医の負担軽減や救急、産科、小児科への重点配分をたたき台として示している。
 ことは日本の将来にかかわる。社会保障費の抑制という財政再建策とは相反するが、十分に議論を重ね、国民的合意のうえで実現させてほしい。

 後半では、産科医をはじめとした医師不足について言及している、が、もちろん、自らの責任については言及するはずもない。
 以前にも述べたが、わざわざ患者を悪くしよう、悪くなっている患者がいるけど放っておこうなどとする医師を私は見たことがない。少なくとも私の周りにはいない。皆、患者に良くなって欲しいと思い、日々労働基準法を無視して働いている。
 医療に100%はない。中には不幸な経過をたどるものもいるだろう。それを、マスコミがこれだけあおり立てれば、産科医になろうというものが減るのも当然だろう。
 社会保障費については医師不足と同じく考えなければならない問題。先進国中もっとも低い医療費にもかかわらず、抑制へ抑制へと突き進むのみ。少子化対策にもつながる話なのに、
“「社会保障費の抑制」とは相反するが、やれ”
…となんとも歯切れの悪い表現。なぜ社会保障費を増やせと言えないのか。

 医療の安全・安心を確保するには、身近に「お医者さん」がいるという本来の姿を取り戻すことが一番望ましいのではないか。

 「お医者さん」がいなくなりつつあるのは、奈良県だけではない、全国的な問題。その一因となっているのは、マスコミの報道姿勢もある。これは今回の件でも明らかだ。これを自覚することがなければ、解決はできない問題だろう。
 以下は記事。

社説:妊婦死産 救急医療体制の穴をふさげ
 奈良県で腹痛を訴えた妊婦が、受け入れ病院探しに時間がかかった末、救急車内で死産した。同県では1年前にも同じような経緯で妊婦が出産後に死亡している。行政も医療現場も、命を代償に得た教訓をどこまで真剣に受け止めたのか。批判は免れない。国全体で、安全で安心して子供を産める体制づくりに取り組む時である。
 国は都道府県に、リスクの大きい周産期の母体や胎児・新生児の高度医療を担う総合周産期母子医療センターを、今年度中に設置するよう求めている。センターは、受け入れ可能な医療機関探しの中核にもなる。奈良県は昨年の事故後に設置を決めたが、開設は来年5月までずれ込む。
 奈良県立医大付属病院など2病院が転送先を探す独自の周産期医療ネットワークはすでに存在する。しかし、医療機関からの依頼が前提で、今回のように救急からの問い合わせは想定していなかった。病院内の連絡が不十分だったため、受け入れ可能な病院が断っていたケースもあった。
 命を託す「119番」通報が役に立たないのではどうなるのか。こうしたシステムの不備や体制作りの遅れが悲劇の再発を招いたことを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 奈良県は毎年、産科の緊急患者の30〜40%を県外搬送し、特に隣接する大阪府に大きく依存している。だが、産科救急システムは連動していない。改めて、自治体と病院・救急が協力して現行制度の欠陥を洗い出し、広域連携の強化や病院と救急の連絡方法の見直しを急がなければならない。
 こういった危険な状況は奈良県だけの問題ではない。受け入れ先が見つからずに搬送が遅れるという事態は、大都市も含め全国で常態化している。背景にあるのが、深刻な医師不足だ。
 産科医は全国で04年までの10年間に7%減少した。深夜の勤務や呼び出しが当たり前という厳しい労働環境に加え、医療過誤で訴えられるケースも多いのが大きな要因だ。これに伴い、産科を廃止する病院が相次ぎ、高度医療が可能な中核病院で普通分娩(ぶんべん)が増え、緊急時の受け入れができないという悪循環が生じている。
 国は、医学部定員の抑制策を見直すとともに、医師の待遇改善にも取り組むべきだ。医療事故が起きた場合の補償について、医師や病院の負担軽減の手立てを考えることも必要である。
 厚生労働省は来年度予算の概算要求で、勤務医の負担軽減など医師不足対策に、前年度比73%増の160億円を計上した。診療報酬の改定でも、勤務医の負担軽減や救急、産科、小児科への重点配分をたたき台として示している。
 ことは日本の将来にかかわる。社会保障費の抑制という財政再建策とは相反するが、十分に議論を重ね、国民的合意のうえで実現させてほしい。
 医療の安全・安心を確保するには、身近に「お医者さん」がいるという本来の姿を取り戻すことが一番望ましいのではないか。
毎日新聞 2007年9月3日 0時14分