こういう記事で医療サイドをたたいても不毛だよ。

 これも騒がれそうだなぁ、と思ったら1回の記事では終わっていなかった。
 医療サイドが自らの職を忠実に遂行しているにもかかわらず、不幸な経過をたどる、あるいは不幸な結果となる例ってのは少なからずある。それは、たたけばなんとかなるような話ではないと、もういいかげん理解していただきたい。こう記していても力が抜けてくる。
厚木市立病院:「他に急患」診察せず、転送直後に死亡−−先月 /神奈川
ウェブ魚拓
 経過については本文を参照いただくとして、その後、翌日の記事。
転送先男性死亡:厚木市立病院が会見、医療上の責任は否定 /神奈川
ウェブ魚拓

…一方で、医師3人が別の心肺停止患者に対応したため、男性を診療できなかったとし、「診療していないので、医療上の落ち度があったとは受け止めていない。診療拒否にも当たらない」と話した。
(中略)
 病院側が救急車を要請しなかったことについて、同病院は「本人の病状など診療内容の決定に重要な情報を含んでいることから、原則、本人からの要請をお願いしている。今回も、家族が同伴していたため同様の対応をした」と説明した。

 誰が救急車を呼ぶべきか、の話にしたいのかな。それなら、

  • 市立病院の医師3名は心肺停止の急患に対応しているので、他の患者の対応はできない。
  • 病院事務が、一個人として、善意で救急車を呼ぶならともかく、病院の責務として救急車を呼ぶという判断はできない。なぜなら医師ではないから。患者を受ける受けないは医師の判断。しかし心肺停止患者に対応している今はそれどころではなく、事務サイドとしても、「1時間半待つことになる。(嫌なら)他の病院へ行って」と明言している。したがって、事務には救急車を呼ぶ義務はない。事務が「嫌なら」とホントに言ったかどうかは知らん。

 記事を元に、当日の表を作ってみた。

8月12日AM10:17ごろ 男性が家族の運転する車で同病院に着く。
その数分後 心肺停止患者が到着。
同38分 男性を転送するための救急車を要請。
同48分 救急車が到着。
同56分 市立病院を出発。
AM11:01 別の病院に到着。
その約1時間後 男性死亡。

 病院についてから、転送のための救急車が要請されるまで21分。
 心肺停止でしょ?外来バタバタしてたんでないの?待たされていらいらする気持ちはわからんでもないけど、そんなに長い時間とも思えないし、外来の状況見て、こりゃ長くなるかな、って元看護師なら想像つかなかったかな。

 男性が到着した時、当直の医師は内科医1人、外科医2人だったという。

 市立病院の当直医師が総出で心肺停止患者に対応したということで、先の理由の裏付けになる。
 この対応のどこが問題になるんだ。
 以下は記事。
 9月11日。

厚木市立病院:「他に急患」診察せず、転送直後に死亡−−先月 /神奈川
 厚木市立病院(厚木市水引1)で8月、当直中に救急受付を訪れた市内の無職男性(73)が診察を受けないまま別の病院に転送され、直後に死亡していたことが分かった。市立病院側は「心肺停止の患者が搬送される予定で、男性側に『対応できないので他の病院へ行ってください』と説明した」としているが、遺族は「事務職員しか対応せず、そんな説明も一切なかった」と食い違い、市立病院の対応に憤っている。
 男性の妻(67)の話では、日曜当直体制の8月12日午前、男性が「頭が痛い」と訴え、妻の運転する車で同病院を訪れた。救急受付の脇のソファに横になり、看護師が妻に体温計を渡した。いっこうに診察してもらえないので催促すると、職員から「1時間半待つことになる。(嫌なら)他の病院へ行って」などと言われたという。別の患者を搬送してきた救急隊員がやりとりに気づき、見るに見かねて救急車を要請。別の病院に運ばれたが、直後に急性心筋梗塞(こうそく)で死亡した。
 市立病院事業局は取材に対し「心肺停止状態の患者が搬送されることになり『救急車を呼んで別の病院で受診して』と話したが、男性側が『病院が救急車を呼ぶべきだ』と主張したので『規則で、病院が救急車を呼ぶのは医師、看護師が同乗する場合だけ』と説明した」と話している。
 男性の妻は元看護師。男性は以前に心筋梗塞で市立病院の前身の県立厚木病院に入院したという。「待っている間、医師も看護師も来なかった。市立病院の対応はひど過ぎる。こういうことが二度とないよう、声を上げることが大切と思った」と話した。【佐藤浩
毎日新聞 2007年9月11日

 9月12日。

転送先男性死亡:厚木市立病院が会見、医療上の責任は否定 /神奈川
 厚木市立病院で8月、日曜の当直中に来院した市内の男性(72)が受診できず、転送先の病院で死亡した問題で、同病院は11日に記者会見して事実関係を認めた。一方で、医師3人が別の心肺停止患者に対応したため、男性を診療できなかったとし、「診療していないので、医療上の落ち度があったとは受け止めていない。診療拒否にも当たらない」と話した。
 同病院と市消防本部の会見によると、男性が家族の運転する車で同病院に着いたのは8月12日午前10時17分ごろ。数分後に心肺停止患者が到着した。男性を転送するための救急車が要請されたのは同38分。要請したのは心肺停止患者を搬送して来た救急隊員で、男性側と病院側が、どちらが要請するかを巡ってやりとりしているのを聞いたからという。同48分に救急車が到着、市立病院を出発したのは同56分。別の病院に到着したのは午前11時1分で、その約1時間後に男性は死亡した。
 病院側が救急車を要請しなかったことについて、同病院は「本人の病状など診療内容の決定に重要な情報を含んでいることから、原則、本人からの要請をお願いしている。今回も、家族が同伴していたため同様の対応をした」と説明した。
 男性が到着した時、当直の医師は内科医1人、外科医2人だったという。【長真一、佐藤浩
毎日新聞 2007年9月12日