医療ルネサンス'08 第1部/医療を変える⑤
読売が医療特集をやると、最後で必ずガックリとさせる記事を書く。以前も同じようなことがあった気がするなぁ。
2月19日の読売新聞より。
医療ルネサンス'08 第1部
医療を変える⑤
訴訟多発 不信の連鎖
ベストセラー「がんばらない」の著者、長野・諏訪中央病院の鎌田實・名誉院長は昨年、東京都内の大学での講義で、こう話した。
「医療を良くするには、医療費をOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均並みまで、2〜3兆円増やす必要がある。しかし、病院で待たされたり、つらい思いをしたり、『医療は優しくない』と感じる患者も多い。これでは医療費増額に理解を得られない」
GDP(国内総生産)に対する国民医療費の割合は、日本は8%。OECD平均の9%に上げるには、「患者と医師の相互理解が必要」という。だが実際には、それと逆方向の現象が起きている。
この記事に関してはすでに多くの突っ込みが為されているので、私は2点ほど。
一昨年8月、奈良県大淀町立大淀病院で、妊婦(当時32歳)が意識不明になり、搬送先の病院で男児を出産後、死亡した。
妊婦は激しい頭痛などを訴え、家族は医師に「脳出血ではないか」と検査を求めた。だが医師は、妊娠中毒症が原因と判断。容体の急変後、受け入れを何か所もの施設に断られ、搬送先に着いた際には脳出血で手遅れだった。
これが「妊婦のたらい回し」と報道されると、インターネット上で、「お産には様々なリスクが伴う。母子とも助かるのが当然と思うのはおかしい」などと、匿名の医師から妊婦の夫(26)への中傷があり、多くの医師がこれに追随した。
m3.comの件。
当ブログでは大淀病院事件の第1回口頭弁論に際してのエントリーでちょいと触れている。
「お産には様々なリスクが伴う。母子とも助かるのが当然と思うのはおかしい」
これは中傷ではなく、極々当たり前の意見。
この意見を中傷と断じ、「多くの医師がこれに追随」することが問題であるかのように記すこの記事がおかしい。
もひとつ。
本紙の会員制サイト「yorimo(ヨリモ)」会員約5000人を対象にした調査では、47%が「医師の話し方や態度が5年前より向上した」と感じている。ただ、「パソコンばかり見て、目を合わせない」など9割近くが「不満を持った経験がある」とした。
つい、「パソコンばかり見て、目を合わせない」で外来で話をしてしまうのは国策だ。
だって、電子カルテ化を推進しているのは厚生労働省。
そんな国策の波に乗ろうと各ベンダーが考えた電子カルテ端末に向かい、液晶ディスプレイを見ながら、患者さんの訴え、所見をキーボードで打ち込み、ときにマウスを動かし拙いイラストを描き、ときに検査データベースからデータをコピー&ペーストする。
そんなワザを、患者さんとしっかり目を合わせてお話ししながらできると思う?
やれるもんならやってみやがれってんだ。
以下は記事。
医療ルネサンス'08 第1部
医療を変える⑤
訴訟多発 不信の連鎖
ベストセラー「がんばらない」の著者、長野・諏訪中央病院の鎌田實・名誉院長は昨年、東京都内の大学での講義で、こう話した。
「医療を良くするには、医療費をOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均並みまで、2〜3兆円増やす必要がある。しかし、病院で待たされたり、つらい思いをしたり、『医療は優しくない』と感じる患者も多い。これでは医療費増額に理解を得られない」
GDP(国内総生産)に対する国民医療費の割合は、日本は8%。OECD平均の9%に上げるには、「患者と医師の相互理解が必要」という。だが実際には、それと逆方向の現象が起きている。
一昨年8月、奈良県大淀町立大淀病院で、妊婦(当時32歳)が意識不明になり、搬送先の病院で男児を出産後、死亡した。
妊婦は激しい頭痛などを訴え、家族は医師に「脳出血ではないか」と検査を求めた。だが医師は、妊娠中毒症が原因と判断。容体の急変後、受け入れを何か所もの施設に断られ、搬送先に着いた際には脳出血で手遅れだった。
これが「妊婦のたらい回し」と報道されると、インターネット上で、「お産には様々なリスクが伴う。母子とも助かるのが当然と思うのはおかしい」などと、匿名の医師から妊婦の夫(26)への中傷があり、多くの医師がこれに追随した。
横浜の開業医は「(夫には)妻を妊娠させる資格はない」と書き込んだ。侮辱罪で罰金の略式命令を受け、昨年11月、遺族を訪ねて「感情にまかせて書いてしまいました」と謝罪した。
遺族が病院側を訴えた裁判に際し、被告の大淀町は「社会的なバッシングで大淀病院は(産科医療からの)撤退を余儀なくされた」と、それがあたかも遺族のせいであるかのような主張をした。
医療側がこうした姿勢をとる誘因とみられるのが、福島県立大野病院で2004年、帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が死亡し、産婦人科医(40)が業務上過失致死罪などで逮捕された事件だ。被告側は「医師の間には、治療結果が悪ければ刑事責任を追及されるという思いが広がっている」と強調する。
医療過誤を巡る訴訟は一昨年、913件起きた。「真実を知りたい」と裁判に訴える患者。「警察の介入や訴訟が医師不足を加速させる」と主張する医師側。双方が納得できる事故原因の究明制度が必要だ。
日本の医療は、治療技術の向上ばかりではなく、治療成績の公表や患者への説明など情報公開の面でも改善している。
本紙の会員制サイト「yorimo(ヨリモ)」会員約5000人を対象にした調査では、47%が「医師の話し方や態度が5年前より向上した」と感じている。ただ、「パソコンばかり見て、目を合わせない」など9割近くが「不満を持った経験がある」とした。
一方、診療の待ち時間の長さなどにいらだった患者らから、26%の医師が「過去半年に暴言を受けた」との調査もある。
鎌田名誉院長は、こう続けた。
「医師も多忙で疲れているが、医師、患者双方が歩み寄らないといけない」
(終わり)
(第1部は、医療情報部・山口博弥、鈴木敦秋、利根川昌紀、館林牧子、社会部・小林篤子、科学部・長谷川聖治が担当しました)