私も大淀病院産科医師を支持します〜今日はあの大淀病院の事件の第1回口頭弁論の日だそうです。

 詳細な経過については、諸先生方がいろいろなご意見を述べておられますので詳しくは触れません。私は専門外ではありますが、事の経過を見る限り、医療サイドの不手際が不幸な結果につながったとは思えません。
 最近、多くのページで見られる意見。

「出産は命がけ」

 これを忘れてはいけません。
 もちろん、医療サイドとしても、できる限りの「手助け」をします。しかしながら、残念なことに不幸な経過をたどる場合もあります。そして、それが当のお母さん、あるいはお子さんの命に及ぶことがあるかもしれません。
 しかし、産科のことに限りません。患者を意図的に悪くしようとする医者なんて、少なくとも私の周りにはいません。
 毎日、多くの医療機関で、患者の状態を少しでもいい方向に向けるために、多くの医療従事者が、ときには勤務時間をオーバーして、ときには休日にもかかわらず出勤して、ときには夜中の連絡にかけつけて対応をしています。
 その結果、患者さんに笑顔が戻れば、いい顔をしてくれれば、症状が軽快してくれれば、我々にとってこれほどうれしいことはありません。
 しかし、医療に100%はあり得ません。そのわずかな変化にも極力対応できるように、我々は日々研鑽を積んでいますが、それでもどうしようもないこともあります。それが、このたびの経過ではないでしょうか。
 遺族の方々にとっては、非常にもどかしい思いがあるかもしれませんが、先に挙げた言葉に立ち返ってみれば、

「出産は命がけ」

 これに尽きるのではないでしょうか。
 医療サイドとしては、その結果が少しでも良い方向に向くよう、「手助け」をするのみです。
 本題に戻ります。
 残念ながら不幸な結果となってしまったこの件。損害賠償を認めてしまうとなれば、医療サイドの努力が水泡に帰してしまいます。
 患者さんに少しでもいい顔をしてもらおうとがんばった結果が、「損害賠償を!」では、今後、少なくとも奈良県で産科をやろうと思う医師はいなくなるでしょう。
 さて、今日の日にあたり、私が何かできないかと思い、いつものごとく、新聞・雑誌記事横断検索で、「大淀病院」で検索。気になる記事が3つ。しかも、遺族の提訴を受けての記事。

奈良の妊婦たらい回し 提訴の夫*妻の死 真実知りたい*不誠実な病院、中傷に怒り
2007.06.04 北海道新聞朝刊全道 35頁 サ社 (全1,571字)

 たらい回しじゃないってのに、「たらい回し」と軽々しく書いている。地方紙ってこんなもんなんでしょうか。
 後半では、m3.comの件も触れられているけれども、それは興味本位ではなく、医療側が記事を見て、???となったために、皆で検証しただけの話。

 「妊娠したら健康な児(こ)が生まれて、なおかつ脳内出血を生じた母体も助かって当然と思っているこの夫には、妻を妊娠させる資格はないッ!」といった、度を越えた中傷の投稿まであった。

 そして、これが中傷となるかどうか。私は中傷とは思わない。先に挙げた言葉にもどります。「出産は命がけ」です。
 訴えられるべきは、今の医療体制をつくった国でしょう。今回の裁判においては、本来訴えられるべきではない担当医が矢面に立たされるため、そのご苦労は、想像以上のものと思います。
 遅ればせながら、私も大淀病院産科医師を支持します。
 もう2つ記事があるんだけれども、別エントリーで。以下は記事。

奈良の妊婦たらい回し 提訴の夫*妻の死 真実知りたい*不誠実な病院、中傷に怒り
2007.06.04 北海道新聞朝刊全道 35頁 サ社 (全1,571字)
 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年八月に出産中だった妊婦が意識不明となり、十九病院に受け入れを断られた末に死亡した問題で、妊婦の夫の高崎晋輔さん(25)らが、適切な治療を怠ったとして担当医(60)らを相手に損害賠償を求めて五月下旬、大阪地裁に提訴した。十分な説明をしない病院、あらぬ中傷への怒りなどが理由。晋輔さんは、「黙っていたら、同じ思いをする人が出てくる」と心境を明かした。
 「一市民が提訴するには、ものすごい時間とエネルギーが必要。マスコミに出たことで、知らない人から『金が欲しいんだろう』などと批判された」
 晋輔さんの妻の実香さん=当時(32)=は、妊娠四十一週目を迎えた昨年八月七日午前九時ごろ、奈良県五条市の自宅から自ら車を運転し大淀病院に到着した。
 看護記録などによると、分娩(ぶんべん)誘発剤で陣痛が始まった。夕方から嘔吐(おうと)を繰り返し、容体が急変したのは翌八日午前零時すぎ。激しい頭痛を訴え意識を失った。担当医は陣痛による失神と判断。
 だが、実香さんの意識は戻らないままそのうち、両手足が硬直しだし、脳内出血が疑われる症状が出たが、担当医は妊娠中毒症患者が分娩中にけいれんを起こす子癇(しかん)とみて、同日午前一時半すぎに転院先を探し始めたという。奈良県内外の計十九病院に「満床」などを理由に受け入れを断られ、最終的に約六十キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送されたのは、午前六時を過ぎていた。
 診断の結果、実香さんは脳内出血が見つかり、脳と帝王切開の同時手術で奏太ちゃんを出産したが、同月十六日に死亡した。晋輔さんら遺族は、大淀病院での対応に疑問を持ち、病院に説明を求めた。担当医は当初「ミスといわれればミスかもしれない」と話したという。
 ところが、二度目の説明で病院は話し合いの窓口を弁護士とし、「病院にミスはありません。どうぞ訴えてください」と態度を一変した。
 「転院を決めるまでに担当医が顔を見せたのは二度だけ。本当に全力を尽くした結果、こうなったのなら納得できるけど、そうとは思えない。真実を知りたい」と晋輔さんは言う。
 東京のある産科医は「産科医療行政をめぐる奈良県の怠慢が問題の根底にある」と指摘する。「低体重児や多胎など高リスクの出産を受け入れる総合周産期母子医療センターは不整備で、『隣の大阪府に頼っていればいい』とでも思っていたのではないか」と話す。
 厚生労働省は二○○四年に総合周産期母子医療センターを中心とする周産期医療ネットワークの整備を○八年三月までに完了するように全都道府県に求めていたが、事故当時、奈良県は全国で未整備の八県の一つ。
 新生児集中治療室(NICU)や母体・胎児集中治療室(MFICU)も県内に十分な数がなく、高リスクの出産では約四割近くの妊婦を一時間かけて県外に搬送するという、異常事態が放置されてきた。
 一方で、別の問題も問われている。医療従事者のモラルだ。医師専用のインターネットの掲示板に、昨年十月に新聞などでこの問題が報じられて以降、病院関係者でなければ知り得ない実香さんの妊娠の経過や、入院後に意識不明になるまでの状況や会話の内容などが書き込まれた。
 「妊娠したら健康な児(こ)が生まれて、なおかつ脳内出血を生じた母体も助かって当然と思っているこの夫には、妻を妊娠させる資格はないッ!」といった、度を越えた中傷の投稿まであった。さらには、それに賛同する医師も多数いたとされる。
 晋輔さんの代理人石川寛俊弁護士は「病院は遺族への説明責任を果たさない一方、病院関係者とみられる人物が情報を第三者に向けて漏えいしていて許しがたい」と話している。
【写真説明】産科休診で「産婦人科」の「産」の文字が塗りつぶされた大淀病院の案内板=5月27日、奈良県大淀町
北海道新聞